民法の一部を改正する法律案が成立

 

現行民法は、明治29(1894)年の制定以来、全般的な見直しが行われてきませんでした。この間、社会・経済が大きく変化し、取引形態も多様化・複雑化していることを踏まえ、数年間に及び民法の見直し作業が行われ、改正法案が第189回通常国会(平成27年)へ提出され継続審議されてきましたが、5月26日、第193回通常国会で可決成立しました。

■改正法の概要
◎定型約款について
定型約款とは、「定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいうものとすること」と規定され、今回の改正で初めて一定の要件のもとで法的拘束力が認められることとなりました。

消滅時効
(1)原則
消滅時効の期間が、現行法は大雑把に言えば民事10年、商事5年というようなイメージですが、改正法案では、
一 債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅するものとすること。
1 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

二 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅するものとすること。
1 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間行使しないとき。
2 1に規定する各債権を行使することができる時から20年間行使しないとき。

現行法では、例えば、医師の診療費は3年で消滅時効にかかり(民法170条)、弁護士報酬は2年で消滅時効にかかる(民法)という規定がありますが、改正法案ではこれらの職業別短期消滅時効制度は一切廃止となりました。

(2)不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効については、基本的には現行法(20年間)どおりなのですが、改正法案では人の生命身体の侵害による損害賠償請求権については、より長い消滅時効期間(例えば、被害者が損害及び加害者を知った時から5年間)になっています。
特に、交通事故(人身事故)案件などについて適用されることになります。

(3)時効の完成猶予と更新
現行法では「時効の中断」という制度があり、時効の進行を止めて、振り出しに戻してしまうというものですが、「中断」という言葉が分かりにくいと言われてきたことから、改正法案では「時効の完成猶予」と「時効の更新」という表現が用いられています。

◎法定利率
法定利率について、現行法は、民事は年5%、商事は年6%となっています。改正法案では、一律に年3%に変更となっています(商法514条は削除)。しかも、3年ごとに1%刻みで見直すとなっていますので、変動利率となります。

また、交通事故の損害賠償などで被害者側の賠償額を減額する要素である中間利息控除の利率についても議論があり、改正法案では「将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをするものとすること」とし、法定利率と同じ(年3%・変動制)になりました。利率が低い方が被害者有利となりますので、これが適用されれば今よりも賠償額が増えることになります。

債務不履行
中間試案では、「債務の本旨」という言葉を使うと債務不履行の態様を限定する趣旨だと誤読されるとして、あえて削除していたのですが、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができるものとすること。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでないものとすること」という形で規定されました。

◎危険負担
契約目的物が帰責性なしに滅失等した場合のリスクを誰が負担するかという問題である危険負担の問題については、現行法の規定が合理的ではないと批判が強かったことから、現行民法534条及び535条は削除されました。

ただし、危険負担に関する規定が消えたわけではなく、「売買」のパートにおいて「目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転」という規定が定められています。そこでは、売主が買主に目的物を引き渡した時以後にその目的物が売主の帰責性なく滅失・損傷したときは、買主は契約の解除等をできないし、代金の支払いを拒むこともできない旨を規定しています。

なお、中間試案では、現行民法536条1項に該当する規定も削除となっていましたが、法曹界から矛盾点を指摘されたことから、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができるものとすること」と規定されました。

◎施行日
公布の日から3年以内の政令で定める日

詳しくは下記参照先をご覧ください。

参照ホームページ[衆議院]
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/menu.htm