治療と仕事の両立 企業・医療機関連携のためのマニュアルなどを更新

 厚生労働省では、がん、脳卒中などの疾病を抱える方々に対して、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と職業生活が両立できるようにするため、事業場における取組などをまとめた「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を公表しています。これに加え、平成29年度に作成した難病に関する留意事項、企業・医療機関連携のためのマニュアルなどを公表していますが、その一部が、平成30年4月24日付けで更新されています。

■治療と職業生活の両立支援を巡る状況
(1)疾病を抱える労働者の状況
  「治療と職業生活の両立等支援対策事業」(平成25年度厚生労働省委託事業)における企業を対象に実施したアンケート調査によれば、疾病を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%と、なっています。また、「平成22年国民生活基礎調査」に基づく推計によれば、仕事を持ちながら、がんで通院している者の数は、32.5万人に上っています。

  さらに、労働安全衛生法に基づく一般健康診断において、脳・心臓疾患につながるリスクのある血圧や血中脂質などにおける有所見率は、年々増加を続けており、平成26年は53%に上るなど、疾病のリスクを抱える労働者は増える傾向にあります。
  また、これらの疾病の有病率は年齢が上がるほど高くなる状況にあり、高齢化の進行に伴い、今後は職場においても労働力の高齢化が進むことが見込まれる中で、事業場において疾病を抱えた労働者の治療と職業生活の両立への対応が必要となる場面はさらに増えることが予想されています。

(2)疾病を抱える労働者の就業可能性の向上と課題
  一方、近年の診断技術や治療方法の進歩により、かつては「不治の病」とされていた疾病においても生存率が向上し、「長く付き合う病気」に変化しつつあり、労働者が病気になったからと言って、すぐに離職しなければならないという状況が必ずしも当てはまらなくなってきています。

  しかしながら、疾病や障害を抱える労働者の中には、仕事上の理由で適切な治療を受けることができない場合や、疾病に対する労働者自身の不十分な理解や、職場の理解・支援体制不足により、離職に至ってしまう場合もみられます。
  例えば、糖尿病患者の約8%が通院を中断しており、その理由としては「仕事(学業)のため、忙しいから」が最も多くなっています。また、連続1か月以上の療養を必要とする社員が出た場合に「ほとんどが病気休職を申請せず退職する」「一部に病気休職を申請せず退職する者がいる」とした企業は、正社員のメンタルヘルスの不調の場合は18%、その他の身体疾患の場合は15%であり、過去3年間で病気休職制度を新規に利用した労働者のうち、38%が復職せず退職しています

(3)事業場等における現状と課題
  事業場においては、健康診断に基づく健康管理やメンタルヘルス対策をはじめとして、労働者の健康確保に向けた様々な取組が行われてきたが、近年では、厳しい経営環境の中でも、労働者の健康確保や疾病・障害を抱える労働者の活用に関する取組が、健康経営やワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティ推進、といった観点からも推進されています。

  一方で、治療と職業生活の両立支援の取組状況は事業場によって様々であり、支援方法や産業保健スタッフ・医療機関との連携について悩む事業場の担当者も少なくありません。
  こうしたことから、労働者の治療と職業生活の両立支援に取り組む企業に対する支援や医療機関等における両立支援対策の強化も必要な状況にあります。

■治療と職業生活の両立支援を巡る状況
(1)事業者による両立支援の取組の位置づけ
  労働安全衛生法では、事業者による労働者の健康確保対策に関する規定が定められており、そのための具体的な措置として、健康診断の実施(既往歴、業務歴、自覚症状及び他覚症状の有無の検査や、血圧等の各種検査の実施)及び医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは就業上の措置(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等)の実施を義務付けるとともに、日常生活面での指導、受診勧奨等を行うよう努めるものとされています。これは、労働者が、業務に従事することによって、疾病(負傷を含む。以下同じ。)を発症したり、疾病が増悪したりすることを防止するための措置などを事業者に求めているものです。

  また、同法及び労働安全衛生規則では、事業者は、「心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者」については、その就業を禁止しなければならないとされているが、この規定は、その労働者の疾病の種類、程度、これについての産業医等の意見を勘案してできるだけ配置転換、作業時間の短縮その他の必要な措置を講ずることによって就業の機会を失わせないようにし、やむを得ない場合に限り禁止する趣旨であり、種々の条件を十分に考慮して慎重に判断すべきものです。

  さらに、同法では、事業者は、その就業に当たって、中高年齢者等の特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行うように努めなければならないこととされています。
  これらを踏まえれば、事業者が疾病を抱える労働者を就労させると判断した場合は、業務により疾病が増悪しないよう、治療と職業生活の両立のために必要となる一定の就業上の措置や治療に対する配慮を行うことは、労働者の健康確保対策等として位置づけられます。

(2)事業者による両立支援の意義
  労働者が業務によって疾病を増悪させることなく治療と職業生活の両立を図るための事業者による取組は、労働者の健康確保という意義とともに、継続的な人材の確保、労働者の安心感やモチベーションの向上による人材の定着・生産性の向上、健康経営の実現、多様な人材の活用による組織や事業の活性化、組織としての社会的責任の実現、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現といった意義もあると考えられます。

(3)ガイドラインの位置づけ
ア ガイドラインの内容とねらい
  ガイドラインは、治療が必要な疾病を抱える労働者が、業務によって疾病を増悪させることなどがないよう、事業場において適切な就業上の措置を行いつつ、治療に対する配慮が行われるようにするため、関係者の役割、事業場における環境整備、個別の労働者への支援の進め方を含めた、事業場における取組をまとめたものです。

イ ガイドラインの対象
  ガイドラインは主に、事業者、人事労務担当者及び産業医保健師、看護師等の産業保健スタッフを対象としているが、労働者本人や、家族、医療機関の関係者などの支援に関わる方にも活用可能なものです。
  ガイドラインが対象とする疾病は、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、その他難病など、反復・継続して治療が必要となる疾病であり、短期で治癒する疾病は対象としていません。

  また、ガイドラインはすでに雇用している労働者への対応を念頭に置いていますが、治療が必要な者を新たに採用し、職場で受け入れる際には、ガイドラインに規定する留意事項、環境整備及び進め方を参考として取り組むことが可能なものです。
  さらに、ガイドラインは、雇用形態に関わらず、全ての労働者を対象とするものです。


詳しくは下記参照先をご覧ください。

参照ホームページ[ 厚生労働省 ]
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html